化学者と結晶化

物質の最小単位、分子には「形」があります。その「形」によって物質の性質が決まります。例えば高校の化学の教科書に「メタン分子は正四面体構造」と書いてあります・・・実際に見たことのある人はいますか?・・・いないはずです(電子顕微鏡でも見えません)。でもどうして形がわかったのでしょうか。

 世界中の化学者が、日々新しい分子を作り出しています。世界的な文献・化合物データベース(ケミカル・アブストラクト)には、1日に約1万5千件の新規化合物が登録され続けているそうです。そして新しい化合物を見出した化学者は、それがどんな形をしているのか、知りたくて仕方ありません。この時、心強い分析手法となるのが「単結晶X線構造解析」という方法です。きれいな結晶にX線をあてて、反射する方向と強度を正確に測定すると、結晶中の原子配置、すなわち「分子の形」がコンピュータ上で再現できます。ちなみに前述の「メタンが正四面体構造」であることは様々な実験データから導き出しているわけですが、必ずしも一般の人が「なるほど」と思える直接的な情報ではありません。それに対して「単結晶X線構造解析」はかなり直接的な結果を与えてくれます。まるで顕微鏡で分子の形を見ているかのようです。

 この「単結晶X線構造解析」には一つ大きなハードルがあります。名称にもあるように、「単結晶」を手に入れなければなりません。単結晶とは、結晶全体にわたって原子が規則的に配列している固体です(結晶のどの位置でも結晶軸の方向が変わらないもの)。物質にもよりますが、時としてこれが至難の業です。結晶化(再結晶)の方法は様々ですが、基本的にはなるべく揺らさないで、ゆっくりと結晶が成長するようにすることです。あまりにゆっくりなので、結晶が成長するのに数週間から数カ月かかることも珍しくありません。
 ちなみに分子量の大きなタンパク質ではこの「結晶化」がとても大変だそうで、時として地球の「重力」すら邪魔になります。これを解決するため国際宇宙ステーション(ISS)まで結晶化の装置を持ち込み、無重力状態で結晶化を試みたりします。2018年11月には、物資補給船こうのとり7号の特殊なカプセルに入れた結晶サンプルが、ISSから地球に無事戻り回収されたというニュースがありました。

「良質の結晶サンプルが得られるなら、宇宙に持ち込んででも実験する。それほど分子構造が知りたい!」

実は化学者の意気込みが感じ取れるニュースなのです。

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