豊かで快適な未来社会の一翼を担う“バイオセンサ”

1)バイオセンサとは

バイオセンサは、生物が持つ優れた物質識別能力を利用して、誰もが、簡単に・いつでも・どこでも特定の成分を検知・定量できるようにするための小型でコンパクトな測定装置(計測デバイス)です。図1に示すように、酵素や抗体などのタンパク質や、DNAなどの核酸、微生物や細胞、動植物の組織などの生体関連物質を「生物素子*(物質識別素子)」として、さまざまな信号変換器と組み合わせて作られます。バイオとエレクトロニクスの融合によって生まれた新技術で、生物、化学、電子、情報、メカトロニクス分野のさまざまな研究者が新しいバイオセンサの開発に取り組んでいます。

Q1(学生): 「生物素子」って何ですか?

A1(教授): 素子とは、自然科学で明らかになった原理や作用を工学的に応用・利用するために作製された簡便な部品のことです。バイオセンサにおける「生物素子」とは、生物由来のさまざまな物質を信号変換器に固定化して、いわば道具のように使えるようにしたもののことを言います。

Q2(学生): 生物由来の物質を素子として使うメリットは何ですか?

A2(教授): いろいろな物質がたくさん混ざっている溶液の中に、どんな物質がどのくらい存在しているかを化学的な手法を使って実験室や研究室で調べるのは実はとても大変で、高価な設備や専門知識、熟練した技術が必要です。でも、バイオセンサに利用される生物由来の物質(生物素子)は、特定の物質だけを見分ける能力がとても高いので、測定溶液にセンサを接触させるだけで、目的の物質をすばやく見つけて、その量を知らせてくれます。だからバイオセンサを使うと、誰もが、いつでも・どこでも、簡単に必要な情報を得ること(ユビキタスセンシング)が可能となるのです。

補足(教授): 生き物の体の中では、いろいろな生体分子が、たえず情報交換・役割分担をしながら適材適所でその役割を果たすことで、とても神秘的で複雑な生命現象が維持されているのです。

2)バイオセンサの用途

現在、市販されているバイオセンサとしては、糖尿病患者さんが血液中のブドウ糖の量(血糖値)をチェックするために在宅で使用する血糖値センサや、遺伝情報や遺伝子の挙動を調べるためのDNAチップが広く普及しています。それ以外にも、バイオセンサの用途は多岐にわたっており、医療・ヘルスケアだけでなく、環境モニタリング、食品・農業分野で、さまざまな成分を測定対象とした応用が期待されています。今後の実用化が期待されているものも含めて、さまざまな用途・応用分野を図2にまとめました。

Q3(学生): 血糖値センサでは、どうやって血液中のブドウ糖の量を測っているのですか?

A3(教授): ブドウ糖とだけ反応して、ブドウ糖を別の物質に変換する触媒として働く酵素(触媒タンパク質)を生物素子として利用します。血液を1滴センサに載せて生物素子と接触させると、触媒タンパク質がブドウ糖を見つけて反応します。この時、酵素がどのくらい働いたかを電流に変換します。血液中のブドウ糖の量が多いほどたくさん電流が流れるので、この比例関係を使って血液中のブドウ糖の量を数値化しています。

Q4(学生): 図2の中の「がんマーカー」って何ですか?

A4(教授): 体のどこかにがん(腫瘍)ができると、血液や排泄物中に、がん細胞が作り出す特殊な物質が放出されます。これを「がんマーカー(腫瘍マーカー)」と呼びます。がんマーカーを測定することによって、がんの有無や進行度を知ることができます。また治療の効果を確認することもできます。病院にいかなくても、バイオセンサを使って自宅で日常的に健康状態を簡単にチェックできればとても安心ですね。

3)バイオセンサの未来

内閣府が提唱している未来の理想社会(Society 5.0)は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな未来社会のことです。第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されました。

この未来の理想社会(Society 5.0)の中では、図3に示すようにセンサによる情報収集は非常に重要です。例えば、医療に関わる未来のバイオセンサは、身体装着型*(ウェアラブル)で、IoT(Internet of Things:もののインタ-ネット)技術と連携して日常生活の中で自身の健康状態をリアルタイムにモニターします。これの情報をビックデータとして人工知能(AI)によって解析して活用できれば、健康寿命も延び、皆が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになるでしょう。

Q5(学生): 身体装着型のウェアラブルセンサには、どんなものがありますか?

A5(教授): 涙、唾液、汗、尿などに含まれる健康の指標となる成分の検出を目的として、コンタクトレンズ型、マウスピース型、絆創膏型、腕時計型、サポーター型、下着埋め込み型、おむつ型、Tattoo型、人工皮膚型など、さまざまな材料を利用した身体装着型(ウェアラブル)バイオセンサが現在盛んに研究されています。体内埋め込み型や、カプセル型(一度飲み込み、後で排泄)も現在研究段階です。

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