「化粧品」は “ 化学 ” の名作集です。

♣「化粧品」はどうやってつくられる?

今では、専門店だけでなく、いわゆるドラッグストア等でも多彩な品ぞろえが並ぶ「化粧品」。種類も幅広く豊富ですが、これらはみな、化学の世界では様々な技術開発や素材開発が巧みに詰められた名作・傑作といっても過言ではありません。歴史を経て進化した、巧みな技術が生んだものともいえます。

では、「化粧品」ってどのようにつくられているのでしょうか? そのお話の前にまず、化粧品の分類についてまとめてみましょう。

まず、化粧品には「基礎化粧品」と「メークアップ化粧品」があります。「基礎化粧品」はスキンケア化粧品とも呼ばれ、人の皮膚生理を補完する役割があるものです。水分油分の補給や乾燥防止、洗浄等もこれに含まれ、洗顔料や日焼け止めなども(広い意味での)基礎化粧品に分類されます。これに対し「メークアップ化粧品」は、美化することにより魅力を増し、容貌を変えることを主目的とするもので、いわゆる“お化粧”の本来の目的を果たすものといえます。いずれも、人の肌に直接触れるものであり、しかも長時間・継続的に使うものが多いですので、安全性は非常に重要となります。なお、日本の化粧品には全成分の表示が義務付けられており、製品パッケージまたは製品本体に全成分が記載されています。これも、ユーザーに対する様々な指標として重要なものです。

でも、化粧品の製品の成分表示を見ても、たくさんの化学成分が並んでいて、何を目的に加えられているかわかりませんよね。

ここでは、化粧品に含まれる一般の成分について、代表的なものを紹介しましょう。

(1) ベース成分(基剤)
これは、ほとんどの成分で共通です。水+油+界面活性剤を混合させたものが用いられます。とくに油成分は近年、天然由来の成分が多く用いられています。この混合液はいわゆるエマルジョンとよばれる、粒子が水中に均一に分散した(乳化した)液体です。この液中に、顔料とよばれる微粉末の固体が加わります。この微粉末が肌の上にのることにより、あの“肌を彩る”顔料となるのです。なお言うまでもありませんが、この微粉末は液体の中に溶けたもの(染料のようなもの)ではありません。化粧品は洗い落とせることも重要ですし、加えて肌の乾燥を守り、発汗を阻害しないもことも必要となります。そのため、この顔料にも様々な技術が含まれているのです。これは後で紹介いたします。

(2) 機能性成分
一般に美容成分と呼ばれ、それぞれの化粧品において大きな特徴となります。中でも、皮膚への様々な効果(抗老化や抗炎症、美白など)を与える成分が加えられているものが多くあります。一般には、これに光沢剤や酸化防止剤、香料などの感覚性成分を加えて化粧品ができあがっています。これらの各成分は医薬品と同様に、化学の世界で生み出される多種多彩な成分が見事に組み合わされてできたものと言えます。

成分の詳細はそれぞれの製品に表示されていますので、難しいかもしれませんが(自分の興味ある製品を手に取ったときは)一度調べてみるのもよいのではないでしょうか。

「酸化チタン」= 白色顔料の決定版

酸化チタン(TiO2)は、安価で化学的に安定、かつ加工性に優れた白色の粉体です。無害でもあるため、化粧品に含まれる顔料として必須と言える成分の一つとしてよく知られています。ちなみに、化粧品で主に用いられる白色顔料は酸化チタンのほかに酸化亜鉛(亜鉛華)がありますが、これらに滑石(タルク)や雲母(マイカ)などの天然鉱物の微粉末を加えて製造される例が多いようです。

酸化チタンの特徴として、紫外線を吸収する作用(いわゆる“UVカット”)があります。そのため化粧品として用いられやすいのですが、逆に紫外線を吸収した酸化チタンは「光触媒」の活性を示すことでも有名です。もし、肌にのった酸化チタンが光触媒活性を示すと、活性酸素を生じ化粧品成分のみならず肌の劣化にもつながりかねません。そこで、化粧品用の酸化チタンには、緻密な表面処理による表面活性抑制と、超微粒子化した粉体を球状にして通気性を確保し肌呼吸を阻害せず、発汗の抑制も最小限におさえるための加工が施されています。現在では「化粧品用酸化チタン」として光触媒の性質を表面修飾法でカットされたものが用いられており、UVカットの性能はそのままに肌に優しい成分として添加されています。近年では、雲母(マイカ)の表面に酸化チタンをコーティングした「雲母チタン」が開発され、肌触りの良い光沢顔料として多用されています。

人の肌の色を顔料として再現するのには、複数の顔料を組み合わせます。その際に、酸化チタン白色顔料のほか、酸化鉄系顔料(含水酸化鉄~酸化鉄、赤橙色~黒色まで多彩)もよく用いられます。これら無機顔料に加え、有機顔料を組み合わせることで、人肌にあわせた多彩な色調をもつ、化粧品のあの肌色がつくられているのです。

文責:有谷 博文(教授) https://www.sit.ac.jp/laboguide/kougaku/seimeikankyou/#aritani

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