「LED(発光ダイオード)」 -未来を照らす省エネルギー発光体-

★「LED」ってどんな照明?
蛍光灯や白熱球が夜を灯した時代から、もうすっかり照明の世界では主力となったLED(発光ダイオード)。すでに一般照明だけでなく、イルミネーションライト等としても広く活用されており、夜のライトアップの美しさをデザインする場も数多く見られるようになりました。これも20世紀後半から実用化が進展後、21世紀に入り一気に実用の急拡大が進んだLED照明の普及とその高性能化によるものです。

LED照明の一番の魅力は、何といっても省エネルギーです。例えば、白熱電球や蛍光灯と比べると、エネルギー効率に大きな差があります。具体的には、電力量あたりの光の明るさ(単位は「lm/W」、lm[ルーメン]は光の全量、W[ワット]は電力量で、lm/Wの値が大きいほど省エネルギーといえます)では、白熱電球が15、蛍光灯が68なのに対し、LEDでは90(経済産業省の資料より)となります。このようにLEDライトは省エネ型照明として広く市販されていますが、それらの商品には現在も「60W相当」のような表記が多くみられます。これは消費電力のことではなく明るさの目安のことで、「60W相当」とは「白熱電球の60W相当の明るさ」という意味になります。ですので、LEDでは実際の消費電力は7~8W程度になることが多いでしょう。

LED照明のメリットはそのほかにも、長寿命であること、屋外での使用も可能であること、発熱が小さいこと、発光体が小さいため応用範囲が広いこと、など多数挙げられます。

一方で課題もあります。現在の最大の課題は、いわゆるLED発光体の高輝度化(さらに明るい発光体とすること)です。例えば、LED照明でできた信号機。よく見ると、小さな点がたくさん集まった発光体でできていることがわかります。これは、個々の発光体から出る光の量が十分ではないためです。LED発光体の高輝度化は現在も開発途上ですが、発光体の耐熱温度の限界やコストの問題など様々な理由があり、今後の課題として残されています。

★ LED照明のしくみ
LED照明をつくる一つ一つのLED発光体そのものは、実は50年以上も前から知られているもの(当時は赤色のみ)です。光の三原色をなす赤・緑・青の三色のうち、赤色のLEDが最も早く、次いで緑色が実用化され、開発は難関とされていた青色ダイオードも1990年前後に実用段階へと進みその後量産化されました。現在では価格も比較的安価となり、蛍光灯などに代わる照明器具の主力となった経緯があります。

では、LEDの発光体はどのような仕組みなのか、以下はその簡単な概略です。その前に、その基本となる「半導体」について触れましょう。

半導体というのは、金属のように電気をよく通す「導体」と、プラスチックやセトモノのように全く電気を通さない「絶縁体」の中間の性質をもつ物質のことをいいます。シリコン(ケイ素)がその体表的な材料なのですが、少しエネルギー(電気や熱、光など)を加えると電気が流れる性質のものと考えて頂ければと思います。その半導体には、n型半導体とp型半導体があり、n型は(エネルギーが与えられていない状態で)電子が豊富にたまった状態、p型はその逆で電子が不足した状態になっているものです。このn型とp型の二つの半導体を接触させると、少しのエネルギーを与えただけでn型からp型に電子が流れる新しい性質(起電力)が生まれます。ちなみに、太陽光パネルはまさにその性質を使ったもので、太陽からの光を受けることで電子の流れ(直流の電流)をつくり、電気エネルギーを生む仕組みでできています。

では、LEDの場合です。n型とp型を接触させた半導体に直流の電流を流すと、電子はn型からp型の方向に流れ、同時に熱のエネルギーが発生します。ここで発生するエネルギーを発光に変えるために、n型とp型との接合部に発光体の薄い材料を挟むのです。この発光体材料の開発と実用化が、まさにLED照明の実用化への歴史となったといえます。現在のLEDの発光体素子の構造の概要は図の通りで、マイナス極(カソード)上に載った基盤上にはn型半導体、発光体の薄膜(発光層)、p型半導体の順にサンドイッチ構造になっており、さらに頂点の位置にプラス極へつながる電極が載っていることがわかります。このような発光体素子全体は樹脂に封じられた構造で空気には触れていません。そのため、この素子に電流を流すことで発光体部分からの光が放出され、外側の樹脂全体がレンズのような役割となって光るのです。

★「青色 LED」の発明と実用化:2014年ノーベル物理学賞
LED発光体の歴史は、まず1962年にホロニアックにより赤色LEDの発明に始まります。次いで1972年にクラフォードによって黄緑色LEDが発明され、後に実用化されました。しかしながら、光の三原色の中で最もエネルギーの大きい青色のLED発光体は長年の開発でも課題となっていました。そんな中で、発光体となる窒化ガリウム(GaN)の単結晶化を1985年に成功した赤崎勇氏と天野浩氏の功績、さらに実用的な輝度まで開発を進めた高輝度青色LEDの量産技術を1993年に成功させた中村修二氏の功績を契機として、白色LEDの実用化が急速に進展しました。さらに黄色蛍光体を加えた白色LEDなどの高性能化も進行中で、量産化とともに21世紀に入ると従来の白熱電球や蛍光灯からのLED照明への転換が進みました。そして現在ではLED照明は一般に広く普及し、省エネルギー照明の確固たる位置を占めるに至りました。

このような功績から、高効率青色発光ダイオード(LED)の発明により赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏は2014年にノーベル物理学賞を受賞されました。その発光体開発の礎となった結晶性窒化ガリウム(GaN)を始め、発光体の高輝度化や耐熱化など幅広い研究が現在も世界的に続けられています。

文責:有谷 博文(教授) https://www.sit.ac.jp/laboguide/kougaku/seimeikankyou/#aritani

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