新型コロナワクチンと免疫

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染爆発・世界的大流行)を終息させてこれまでの日常を取り戻すために、ワクチン接種が推奨されています。ワクチン接種により、高い確率で発症を防ぐことができ、重症化のリスクが軽減されると考えられています。

ワクチンの働きを説明する前に、まず新型コロナウイルスについて簡単に説明します。

新型コロナウイルスとは
 新型コロナウイルスは、正式にはSARS-COV-2Severe Acute Respiratory Syndrome COronaVirus 2:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-変異型)と呼ばれます。コウモリを自然宿主とするコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになった変異ウイルスのことです。自然宿主とは、自然界で寄生体と共生している宿主(寄生される生物)のことです。このウイルスはコウモリには無害ですが、他の生物に感染すると病気を引き起こします。この新型コロナウイルスによって引き起こされる感染症「COVID-19」(COronaVirus Infectious Disease, emerged in 2019:2019年に発生したコロナウイルス感染症)といいます。

新型コロナウイルスの構造
 このウイルスの遺伝子はDNAではなくRNAです。このRNAは、球状のエンベロープと呼ばれる脂質膜に取り囲まれ、そのところどころにスパイクタンパク質が突き出しています。その突起が王冠(ギリシャ語コロナ)のように見えるので、コロナウイルスと呼ばれます。ヒトの細胞に感染するときには、スパイクタンパク質がヒトの細胞表面のACE受容体というタンパク質に結合し、これを引き金としてウイルスの脂質膜がヒトの細胞膜と融合し、ウイルスはヒトの細胞内に侵入します(図1右)。


図1 新型コロナウイルス (SARS-COV-2) の構造と、ヒトの細胞内への侵入メカニズム


ワクチンと免疫
 私たちには、体内に侵入した「異物」や「病原体」を排除するために「免疫」という防御システムが備わっています。免疫をひき起こす異物や病原体を抗原といい、病原微生物やウイルスなどの病原体だけでなく、花粉、薬品、食品も抗原になることがあります(この場合は過敏症:アレルギー)。抗原に結合して抗原を排除する手助けをするタンパク質を抗体といいます。

抗体は、次の3つの働きによって、体内に侵入した異物(抗原)を排除する手助けをします。
オプソニン化作用:病原体に結合して目印となり、貪食(どんしょく)細胞と呼ばれる免疫細胞を呼び寄せて、病原体を貪食・分解しやすくする。
中和抗体作用:病原体が出す毒素や病原体の一部に結合して囲い込み、その働きを弱めたり妨害したりする。
細胞破壊作用(補体の活性化):補体というタンパク質を活性化して抗原となる細菌を破壊する。

 ワクチンの重要な働きの一つは、病原体を標的とする抗体をあらかじめ準備しておくことです。そうすれば、万が一、本物の病原体が侵入しても、あらかじめ準備された抗体が病原体の増殖を防いでくれます。

新型コロナワクチン
 従来型のワクチンは、働きを弱めた病原体やその一部、あるいは病原体の毒素を利用してきました。一方、今回の新型コロナワクチンは、ウイルスの遺伝子を利用する新しいタイプのワクチンで、mRNAワクチンとベクターワクチンの2種類があります。
(1) mRNAワクチンは、ウイルスのスパイクタンパク質の設計図となるmRNA(メッセンジャーRNA)を人工的につくり、それを脂質の膜に包んだワクチンです。ファイザー製(米)、モデルナ製(米)のワクチンはこのタイプです。今回のCOVID-19のパンデミックに対応して開発されました。
(2) ベクターワクチンは、人体に無害なウイルスにコロナウイルスの遺伝子を注入したものを遺伝子の運び屋(ベクター)として用いるワクチンです。アストラゼネカ製(英)のワクチンはこのタイプです。新型コロナウイルス以外にも、エボラ出血熱ウイルス用のワクチンが実用化されています。


mRNAワクチンによる免疫細胞の応答
 mRNAワクチン (ファイザー・モデルナ製) のしくみを説明します。mRNAワクチンを接種すると、樹状細胞という免疫細胞にmRNAが取り込まれ、その情報をもとにウイルスのスパイクタンパク質が作られます。スパイクタンパク質は、私たちにとって異物なので、その情報を他の免疫細胞に伝えるために、樹状細胞はスパイクタンパク質を細胞表面に掲げて提示します(抗原提示)。この情報を受けとる免疫細胞がヘルパーT細胞と細胞障害性T細胞(キラーT細胞)です。情報を受けとったヘルパーT細胞はB細胞にその情報を伝え、これにより活性化したB細胞は分化・増殖し抗体産生細胞となって、スパイクタンパク質を標的とする抗体を作ります。
 
ベクターワクチンの場合は、私たちの細胞に取り込まれたベクターウイルスの遺伝子から新型コロナウイルスのmRNAが作られ、その情報をもとにスパイクタンパク質が作られます。その後の免疫応答は、mRNAワクチンと同じです。

       
図2 mRNAワクチン (ファイザー製・モデルナ製) による免疫細胞の応答

 
ワクチンによってつくられる抗体の働き
 ワクチンを接種していれば、万が一、ウイルスが体内に入っても、あらかじめ準備されていた抗体がスパイクタンパク質に結合します。その結果、スパイクタンパク質がACE受容体と結合できなくなり、ウイルスは私たちの細胞内に侵入できなくなります(図3左)。さらに、抗体が結合したウイルスは、マクロファージなどの貪食細胞に見つけられて食べられてしまいます(図3右)。ワクチン接種から長期間経過すると、抗体の量は少なくなりますが、B細胞の一部はウイルスの情報を記憶したメモリーB細胞(記憶細胞)として生き続けます。万が一ウイルスが侵入しても、メモリーB細胞がすぐに抗体産生細胞になって抗体を大量に作ってくれるので安心ですね。

※ 免疫記憶ブースター効果   一度感染した病原体の情報を免疫細胞が記憶していることを「免疫記憶」といいます。この免疫記憶によって、同じ抗原が再び侵入したときに、前回より迅速かつ強力に免疫システムが働くようになるしくみを「ブースター効果」といいます。今回のコロナワクチンでは、一定の間隔をあけた追加接種によるブースター効果によって、感染・発症・重症化を予防する効果が高まると考えられています。


図3 ウイルスに結合した抗体の役割(中和抗体作用とオプソニン化作用)


■ ワクチンによって活性化される細胞障害性T細胞の役割
 樹状細胞からウイルスの情報を受け取ったヘルパーT細胞は、細胞障害性T細胞(キラーT細胞)も活性化します。細胞障害性T細胞は、ウイルスに感染してしまった細胞を攻撃して破壊することができます。それによって、ウイルスのさらなる増殖を防ぎ、発症・重症化を防ぐことができるのです。

このように、ワクチンは、さまざまな免疫細胞を活性化(訓練)することによって免疫力を高め、恐ろしい病原体から、私たちの命を守ってくれるのです。

※ 副反応 発熱、頭痛、筋肉痛、疲労感などの副反応は、活性化(訓練)された免疫細胞が作り出すさまざまな物質が原因です。「副反応がでる」ということは、確実にワクチンが働いている(ウイルスのタンパク質が作られて、私たちの体がその異物に反応している)という証拠なのです。なお、ワクチンのmRNAは核の中には入らず数日で分解されてしまうので安全です。

より詳しくは、2年生向け「免疫学」で学習しましょう!

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