抗生物質とは医療薬の一つです。病院で、感染症と診断された患者さんがお医者さんから処方されるお薬です。このお薬は感染症の原因となっている病原菌の生育を抑えることができます。抗生物質の歴史は古く、1928年にペニシリンという薬が最初に発見されました。抗生物質が医療現場で使用され始めてから、感染症が原因で命を落とす患者さんの数が激減しました。従って、抗生物質は戦後の3大発明の一つと称されます。
抗生物質は病原菌など微生物の生育を抑えます。しかし、人の細胞の成長は抑えません。それはなぜでしょうか?微生物には毒であるが、人の細胞には毒ではない、こういう性質を選択毒性と言います。微生物は自分の細胞壁やタンパク質を合成しないと生きていけません。抗生物質は、微生物に自らの細胞壁あるいはタンパク質を合成させない機能を持っています。しかし、抗生物質は人の細胞にはそのような悪影響を及ぼしません(誰が最初に思いついたのか…すごいですよね!)
地球上には約300万種類の微生物が存在します。これらの性質は多種多様です。それぞれが生き抜くための自らの生存戦略を持っています。微生物どうしにも縄張り争いがあります。他の微生物よりも早く増えることができればそれだけ有利になります。一方、増えることが遅い微生物も縄張り争いに勝つために多様な武器(攻撃アイテム)を持っています。その攻撃アイテムの一つが抗生物質です。ある種(放線菌と呼ばれる微生物など)の微生物(抗生物質生産菌)は抗生物質を自分の周りに巻き散らかすことで、周りの微生物をやっつけることができます。しかも自分の作る抗生物質にはきちんと防御システムを兼ね備えて自分自身には効かないように工夫しています⦅とても強(したた)かですよね!⦆。現在、医療現場で使用されている「抗生物質」という物質は、実は、このように相手の微生物の生育を止めることで縄張り争いを勝ち抜いてきた強かな微生物の武器(必殺アイテム)だったのです。
より詳しくは、生命環境化学科3年生向けの後期授業「微生物・ウイルス学」で学習しましょう!
文責:秦田勇二(教授) https://www.sit.ac.jp/laboguide/kougaku/seimeikankyou/#hatada