ガンの新薬開発や我々の生活基盤を構成する様々な素材の新開発の分野では、今までにない革命が起こり始めています。これまでに蓄積した膨大な質や量を持つデータ(ビッグデータ)と人工知能(AI)を用いて、研究開発のスピードがこれまでより数倍以上の高速化が実現した例や、従来の手法では創造できない知見や物質の開発に成功したケースが現れています。
化学の原理原則とデータの相関性を見出す
化学現象は、自然の姿そのものです。何でこのような形や色をしているのだろうか?何でこのようなものが作られるのだろうか?それらには、必ず原理原則に基づいた事象であることを忘れてはいけません。一方、それら過去の原理原則にとらわれて、新たな知見に結びつく原理原則を創造することができないケースがあることも事実です。
そこで最近、注目を浴び始めたのが、マテリアルズ・インフォマティックス(MI)です。MIとは、材料と情報の諸技術を組み合わせた新たな研究分野で、既存の手法では生み出すことが困難であった知見や新材料の開発に繋げることを目指しています。つまり、これまでに得られた材料開発に必要なビックデータをAIにより解析して、新たな仮説や理論を得ることで、開発期間を従来の1/10にまで短縮するといった効果が期待できるケースが出てきました。
今まで未経験の開発スピードの領域へ
情報技術のスピード感は、これまでの材料開発には存在しない領域であり、そのスピードに乗っていかないと、開発競争に勝てないと危機感をあらわにする研究者が増えてきました。またこれまでにできなかったことが早期に具現化することは、我々の生活様式の変化に大きく貢献することになります。そのためには、情報技術のスピード感に対応できる技術者の養成が必要であり、研究所の体制をMIにシフトした研究機関も現れました。そうした意味でも、化学にプラスして情報技術の知識を活用する必要性が高まりつつあります。それら知識を活用することで、高精度な予測モデルの確立が実現でき、そこから実験手段が提案されるという、今まで未経験でかつ効率性が高められた開発スピードで研究開発が進むことが期待されているのです。
文責:松浦 宏昭(教授) https://www.sit.ac.jp/laboguide/kougaku/seimeikankyou/#matsuura